高齢者向けに,舌で押しつぶして喫食する介護用ゲル食品が開発されている.このような高齢者食においては,Quality of Life の観点から,咀嚼・嚥下の安全性と美味しさが高次元で両立することが望まれる.美味しさは,食品の化学的性質=味や香りのみでなく,咀嚼・嚥下過程における物理的性質=テクスチャ(食感:舌触り,口溶け,喉越し,など)にも強く依存する.高齢者食の研究・開発現場において,テクスチャの客観的かつ定量的な評価データの獲得が切望される一方で,官能試験では時間,コスト,信頼性の問題が重大な懸案事項となっている.
以上を踏まえ,本研究では,高齢者向けゲル食品を対象とした新しいテクスチャ評価技術を提案し,「ヒトが舌上で感知する食感を数値で呈示する」ロボットセンシングシステムを開発する.
はじめに,圧縮・破断用ロボットと圧力分布センサから構成される簡易的な人工咀嚼システムを示す.このシステムを用いてゲル食品を圧縮・破断する過程の一連の圧力分布を計測し,力学的情報のみでなく,これまで見落とされていたゲル食品が舌上で破断していく際の繊細な幾何学的情報を獲得する.次に,圧力分布データに画像テクスチャ解析手法を適用して特徴量を算出し,食品テクスチャの官能評価値を推定する数理モデルを作成する.最後に,本手法によって,機械的テクスチャ(もちもち感,ねっとり感,など)のみでなく幾何学的テクスチャ(つるつる感,ざらざら感,など)も高精度に推定可能であることを示す.
T. Yamamoto, M. Higashimori, M. Nakauma, S. Nakao, A. Ikegami, and S. Ishihara:
Pressure Distribution-Based Texture Sensing by Using a Simple Artificial
Mastication System, Proc. of 36th Annual Int. Conf. of the IEEE Engineering
in Medicine and Biology Society (EMBC'14), (Chicago, IL, USA, 2014.8.27),
pp. 864-869.