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研究内容Research


ロボット咀嚼シミュレーションの新展開 −食塊形成マニピュレーション−




 ヒトの咀嚼は,歯や舌を用いた食品の“粉砕”,唾液の“添加”,断片群と唾液の“混合”,断片群の“まとめ”から構成され,これら動作を複合的かつ反復的に繰り出し,巧みに食塊(柔らかく飲み込みやすい食品断片群の塊)を形成していく.このような「技能」をヒトは日常的にほぼ無意識に遂行する.一方,歯や顎,舌の機能に不全がある咀嚼困難者においては食塊形成が適切に行われず,誤嚥や窒息の原因となる.このため,ヒトの咀嚼の工学的理解と再現は,歯学分野での摂食メカニズム解明や診断データ解析,食品科学分野での介護用食品の評価や開発に関連して切望されている.しかしながら,従来の機器を用いた咀嚼シミュレータは,ヒトの口腔部周辺の筋骨格や駆動原理の再現に注力したもの,あるいは,食品評価のための破壊試験に注力したものに大別され,ヒトの食塊形成の再現にまで踏み込んだものは見当たらない.
 以上の背景のもと,私たちの研究室では,知能ロボティクスの視座から,ヒトの咀嚼を「対象物を食品,目標状態を食塊とした,食塊形成マニピュレーション技能」と解釈し,どのようなロボットモデルで具現化できるか?という問題に取り組んできた.これまでに,「食塊形成マニピュレーション技能」の実装を志向した新しいロボット咀嚼シミュレータの研究開発を行っている.このシミュレータは,ヒトの構造や動作の再現ではなく,形成されゆく食塊の再現を重視しており,介護用食品の破断特性や凝集性の適正評価,さらには,食塊形成過程の測定データを介して咀嚼困難者の病態理解に貢献できる可能性を秘めている.本研究は,歯学,食品科学,および,工学の学際融合研究と位置付けられるものである.



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  • 加藤優侑, 柴田曉秀, 橋本和紀, 長畑雄也, 東森充: 人工咀嚼過程における力学的・幾何学的計測によるクッキーの経時的状態変化の可視化, 日本食品科学工学会誌, 2025(採録決定).
  • 橋本大輝, 柴田曉秀, 橋本和紀, 堀金智貴, 長畑 雄也, 東森充, 人工咀嚼装置のための包囲領域拡縮メカニズム, 日本機械学会論文集, vol. 90, no. 931, pp. 23-00248, 2024.
  • 特開2023-087750: 咀嚼シミュレータ,咀嚼動作の再現方法, 東森充, 橋本大輝, 柴田曉秀, 鈴木佑晟, 長畑雄也, 堀金智貴, 橋本和紀(公開日:2023年6月26日).
  • 特許第7649511号: 食塊形成装置,咀嚼状態評価方法,食感評価方法及び食塊の製造方法, 東森充, 柴田曉秀, 西慶一郎, 長畑雄也, 木村功, 清水里奈, 堀田真理子, 井上賀美(登録日:2025年3月12日).
  • Y. Suzuki, A. Shibata, K. Hori, and M. Higashimori: Robotic Mastication Simulator That Can Reproduce Food Bolus Formation, Proc. of the SICE Festival 2024 with Annual Conference (SICE FES 2024), (Kochi, Japan, Aug. 30, 2024), pp.1301-1307.
    Winner of SICE Annual Conference International Award.